金融DX時代のデータ活用人材育成──BIPROGYと地銀の新たな挑戦

大垣共立銀行、山梨中央銀行、百五銀行が語る「ビジネス力強化実践プログラム」の活用ポイントとこれから

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「データ活用」の重要性が高まる中、金融機関におけるデータ活用人材の育成が大きなテーマになりつつある。BIPROGYでは、これまでも「BIPROGYデータ活用チャレンジ」の実施など、地方銀行(以下、地銀)をはじめとする各種金融機関のデータ活用人材の育成支援に取り組んできた。2025年1月からはさらに一歩踏み出し、データ分析の入門者向けに「ビジネス力強化実践プログラム」の提供を新たに開始した。プログラムの初回には、BIPROGYのオープン勘定系システム「BankVision」を採用する地銀3行(大垣共立銀行、山梨中央銀行、百五銀行)が参加。約3カ月間の実践を経て、成果共有会が3月6日に開催された。その背景にはどのような課題意識があり、どんな成果が得られたのだろうか――。参加行のキーパーソンやBIPROGYの担当者を交え、手応えや今後の展望などを聞いた。

「データ×ビジネス」で課題を解決する新たな人材育成プログラム

全国の地銀では、金融DXの進展に向けて、自行および関係機関が保有するデータの活用が経営課題になっている。BIPROGYは、金融機関のデータ活用支援のため、一般社団法人 金融データ活用推進協会と協力して「BIPROGYデータ活用チャレンジ」を開催するなど、地銀におけるデータ活用人材の発掘と育成を支援してきた(参考「地方銀行の未来を担う「データ活用人材」を発掘せよ!」)。

この取り組みを一歩進める形で、2025年1月からは「ビジネス力強化実践プログラム」の提供を開始。3月6日には、3行の担当者とBIPROGY担当者による成果共有会が開催され、プログラムに対する各行の感想や課題についてフィードバックがなされるとともに、今後に向けた展望が共有された。

写真:柴谷智之
BIPROGY株式会社 ファイナンシャルサービス第三事業部
営業三部 S-BITS企画室 柴谷智之

BIPROGYファイナンシャルサービス第三事業部 営業三部S-BITS企画室の柴谷智之は、「ビジネス力強化実践プログラム」の背景を次のように話す。

「これまではコンペティションなどを通じてデータ活用への機運を盛り上げ、データ分析や機械学習ができる人材の育成に注力してきました。ただ、DXをビジネスの成果に結びつけるためには、業務部門の担当者自らがビジネス上の問題を整理し、データを活用してそれらを解決可能な課題に変換する力が重要です。各種取り組みの結果分析や、参加行さまへのヒアリングなどを通じて、こうしたスキル獲得に苦慮されている姿が浮かび上がりました。そこで、業務部門の担当者さまが体系的にデータ活用のスキルを身につけられるプログラムを企画しました」

データ活用推進における課題と解決に必要なスキルセット

図版:データ活用推進における課題と解決に必要なスキルセット

「さまざまなご支援を通じて感じるのは、DX推進部門にいるデータサイエンティストの分析力を強化するだけでは、ビジネス上の成果につながりにくい面があるということです。データ活用の加速には、現場業務に精通した業務部門の担当者さまが、分析すべきデータの選定に携わることが重要です。その際の目利き力を高めてもらうことも本プログラムの狙いの1つです」(柴谷)。

データ活用に必要とされるスキルセットは、「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」「ビジネス力」の3つとされている。「ビジネス力強化実践プログラム」では、特にビジネス力の強化に重点が置かれている。

課題解決に必要なスキルセット(イメージ)

図版:課題解決に必要なスキルセット

「ビジネス力強化実践プログラム」がカバーする領域(概要)

図版:「ビジネス力強化実践プログラム」がカバーする領域(概要)

柴谷は「今回、ご参加いただいた3行はAIモデルの構築や機械学習に意欲的に取り組んでいらっしゃいます。『現場の業務課題とデータ分析をいかに結びつけるか』という関心も高かったのではないかと感じます」と話す。各行の担当者も同様の期待感を持っていたようだ。

写真:伊藤啓氏
株式会社大垣共立銀行 IT統轄部
調査役 伊藤啓氏

「データを使ってビジネスインパクトを出すには、データサイエンティストの育成やデータエンジニアリングなどのスキル獲得だけでは不十分です。新たな価値を生むには、『データを現場の課題に即してどう活用するのか』を企画するビジネス力が必要不可欠。今回のプログラムが1つの解決策を提示してくれるのではと思って参加しました」(大垣共立銀行 IT統轄部調査役・伊藤啓氏)。

写真:古屋豪氏
株式会社山梨中央銀行 経営企画部 DX・イノベーション推進室
DX推進チーム 主任調査役 古屋豪氏

「これまではデータ分析手法を中心とした行内研修を行ってきましたが、日常業務になかなか定着しないという課題がありました。このプログラムは業務部門が業務課題を整理し、『データで解決する課題を特定する』スキルが身につく内容であり、そこに魅力を感じて参加しました」(山梨中央銀行経営企画部DX・イノベーション推進室主任調査役・古屋豪氏)。

写真:角賢二氏
株式会社百五銀行 経営企画部
IT戦略課 課長代理 角賢二氏

「データドリブンな組織に変革していくことが現在の大きな経営課題の1つです。このため、百五銀行では、行員一人ひとりにとってデータ活用が身近な存在になる施策をさまざまな形で展開しています。今回の取り組みは、業務部署の行員を主な対象としてデータ分析課題の見つけ方や分析計画の進め方などの習得を目的としています。この点に魅力やメリットを感じました」(百五銀行経営企画部IT戦略課課長代理・角賢二氏)。

共創で磨かれる実践知──成果共有会で見えた次のステップ

1月中旬からスタートした「ビジネス力強化実践プログラム」。3行の業務部門や経営企画部門、データ分析担当部門などに所属するデータ分析の初学者が参加した。2月14日にはオンラインによる集合研修とワークショップが開催された。集合研修では、問題の洗い出しと分析計画表(フレームワーク)の書き方などの方法論を学習し、その後、各行ともに1チーム約5人で構成される2チームに分かれてワークショップを行い、事前に選定した問題を議論してデータ活用の実行計画を作成する体験をした。

開催スケジュール

図版:ビジネス力強化実践プログラムの開催スケジュール

3月6日に開催された成果共有会では、まず各行の担当者からワークショップでの成果やその感想が共有された。また、成果物についての評価や時間配分の見直し、講義内容の難易度の高さなど、さまざまな改善点についても忌憚のない意見が出された。

オンライン集合研修とワークショップの概要

図版:オンライン集合研修とワークショップの概要

オンライン集合研修とワークショップの様子

図版:オンライン集合研修とワークショップの様子
オンライン集合研修とワークショップでは、業務上の問題の中身や解決に向けて関係する担当部署、時間軸などの点を明らかにし、目標値、現状と目標とのギャップ、それらの要因、改善すべき課題のポイントを明確にして具体的な解決策の立案などが行われた。さらに一歩踏み込み、解決に向けた費用などを想定して評価し、解決策の優先順位付けをした分析計画表の作成も実施された

大垣共立銀行の伊藤氏は「参加者の業務部門がさまざまであり、広範な問題を検討材料としてスタートしたので時間的に厳しい面がありましたが、最後までやり切ることができました。成果物の評価としては、最後は急仕上げになったことから、5段階で4という感じです。参加者がつまずいた部分を改善して、参加者が十分検討できるようにしていけば、より良いアウトプットを出せると思います」と振り返る。

山梨中央銀行の古屋氏は「成果物の評価としては5段階評価で5です。ワークショップの中で十分に仕上げられたかどうかは別として、業務に活用できる可能性は十分にありますし、課題の洗い出しや分析につなげられない理由も明らかにできました。また、これまで属人的になっていた業務を平準化するためのヒントも得られました」と評価する。

営業店からの参加メンバーで活発な議論ができたと語るのは百五銀行の角氏だ。「駆け足な面もありましたが、共有会での発表までこぎつけることができました。成果物は5段階評価で4です。中には業務で活用できる可能性があるものもありました」と語る。

写真:馬渕康輔
BIPROGY株式会社 市場開発本部 データ&AIサービス部
RINZAサービス室 馬渕康輔

ワークショップの講師を務めたBIPROGY市場開発本部データ&AIサービス部RINZAサービス室の馬渕康輔は、「フレームワークの中で一番難しいところは、『なぜそうなっているのか』という真因を探り出す部分です」と話し、こう続ける。

「このフレームワークは、ビジネス上の目標から出発し、『現状→問題→要因→真因→課題→解決策』の順に問題を深掘りし、適切な解決策を導きます。真因が曖昧になれば、その解決策も必然的に曖昧になります。真因が明確になれば、具体的な解決策もイメージしやすくなります。そのため、真因の深掘りが重要なポイントです。扱う問題が多いと、解決策のパターンも増えるので、ワークショップの時間内では議論しきれないという面はあったと思います。今後は、こうした点も含めてプログラムのブラッシュアップを図っていきます」

データドリブンな組織文化への変革、継続的な学びが開く未来

今回のプログラム参加によって、各行は、データ活用をビジネス力の強化につなげるためのヒントを得たようだ。今後も継続的に活用して、ビジネスにおけるデータ活用を推進したいという意見も多かった。

古屋氏は「全体を通して非常に効果的なプログラムでした。今回は本部の企画担当を対象に参加メンバーを募集しましたが、こうした方法論を銀行の中でもっと広めると同時に、今回立案した施策を実際に実施して効果を検証することで取り組みの輪が広がると感じました」と語る。

伊藤氏は「データ活用の担当として、今回得られた学びをブラッシュアップし続けたいと思います。また、データ活用に携わる機会の少ない部署や経営層もデータとビジネスの関係性を知っておくべきですので、社内の情報発信を強化していきます。データを活用する文化の醸成はこうした一歩から始まるのではないかと感じています」と話す。

角氏は「プログラムは非常に良い内容でした。金融庁もデータ活用を推奨していますし、本部行員を中心にデータ分析に慣れ親しんでおくことが大切です。データ活用が今後の銀行の強弱を決める要因にもなると捉えていますので、この活動を継続していきたいですね」と語った。

「BIPROGYデータ活用チャレンジ」がきっかけで誕生した「ビジネス力強化実践プログラム」。参加行からのフィードバックなどを踏まえ、さらなる強化ポイントが見えてきた。BIPROGYは金融機関向けのデータ活用人材の育成支援としてさまざまな取り組みを実践していく予定だ。BIPROGYが提供するデータ活用人材育成の支援に今後ともご期待いただきたい。

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